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「支給限度額」とは何だったのか? ~社会的介護の“失われた”理念~

区内の特別養護老人ホーム待機者のなかで、「自己負担も含め限度額以上に利用している」という人が24%もいる。「ほぼ限度額いっぱい使っている」という人を合わせると、2人に1人以上が限度額を使い切るところまで行っている――練馬区のこの調査結果は、大変大きな問題を投げかけています。
ここで「限度額」というのは、正式には「区分支給限度基準額」。訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)など、居宅で暮らす高齢者が利用できる主要なサービスをパッケージ(区分)にして、介護保険で利用できる金額の上限を定めたものです。要介護度別に金額が決まっています。現在はこんな数字です。
介護保険のもともとのルールでは、限度額以内であれば、利用者の負担は利用したサービスの1割ですみました。最近になって、矢継ぎ早に2割負担、3割負担が部分的に導入されてきましたが、それでも私費負担でサービスを使うことに比べればぐっと負担は小さくなります。加えて高額介護サービス費と言って、介護保険の利用者負担には上限も置かれていますから、使うサービスが介護保険の限度額の中で収まるかどうかは、利用者・家族にとっても、ケアマネジャーにとっても、極めて重要なポイントの一つとなっています。
その限度額をいっぱいまで使っている人が、特養待機者の2人に1人以上もいるのです。限度額を超えていない人も、必要ないからではなく、費用負担が限界だからという人が多くいるはずです。在宅での介護をギリギリのところで続けている人たちが、たくさんいる。支給限度額、つまり介護保険の給付の水準は、本当にこのままでいいのか? 私たちは、真剣に考えなければなりません。
もちろん限度額で足りない人は皆、特養で受け入れるというなら、話はまた別です。3年前の調査に比べて、限度額いっぱいに使っている人の割合は11%低下していますが、これは、この間、区が特養の整備を進め、待機者のうち特に介護の必要度の高い人たちのかなりの部分が特養に入所したからだと思われます。
区は、次の事業計画終了時点では特養の待機者は解消すると数字をはじいています。そうすれば、限度額の壁の中で倒れかけそうな高齢者とその家族は、救われることになるでしょうか。しかし、このシリーズの最初で触れたように、家族介護の基盤が急速に壊れてきていることを考えれば、現在の限度額では在宅生活を続けることができなくなる高齢者が区の目算を超えて増える可能性は、きわめて高いと言わざるを得ません。しかも特養(施設)ではない、在宅の生活を継続したいと願う人は、今後、もっと増えていくでしょう。そして最後に、限度額を引き上げる方が、特養を新たに整備するよりずっと“安上り”です。在宅での支援の水準を底上げする。そのために、限度額を引き上げる。あらためて言いますが、現実的で切迫した課題です。
そもそも、給付限度額は、例外的な、あるいは“ぜいたくなサービス水準を示すのでは全くありません。給付限度額がどのように決まったのか。今ではあまり振り返られもしなくなり、介護のプロの方、あるいは介護保険の運営にかかわる行政職員でも、知らない人は多いかもしれない。少しおさらいをしてみます。(続く)

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