Access
池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

交通量推計のこと① ~156号線の説明会から~

都市計画道路のことを議論するとき、いつもこういう意見に出くわします——「半世紀以上も放置してきたことがおかしいんだ。必要な道路なんだからしっかりやるべきだ」。私の投稿にも、乱暴なトーンでこのようなコメントが寄せられています。しかし、本当にそうでしょうか。
現在の都市計画道路は、基本的に、環六(山手通り)の内側は1964年に、外側は1966年に都市計画決定されています。ところが、今の都市計画道路の計画があらためて決められたこの時期に、実は、決めた国や東京都は交通量の推計はやっていませんでした。では、どんな考え方で線を引いたのか。練馬区が議会で説明しているのは、こんな感じです。

◎環境まちづくり事業本部長 練馬区の道路ネットワークをどのようにするかというのは、これは区の都市基盤を整備するうえで、非常に重要なものであるということで練馬区も取り組んでおります。その中のいくつかの道路がございまして、一番大きな道路という意味でいいますと都市計画道路ということで、これはきちっとした法的な手続に基づいて決定をするものであるということです。練馬区内でいいますと、おおよそ1キロメッシュで決められているというのが都市計画道路でございます。それを今度は補完するということで、生活幹線道路網を、私どもは昭和63年5月に決めさせていただいてございます。この生活幹線道路は500メートルメッシュで整備をするということで決めさせてございます。さらに地域の道路ネットワークとして、地区施設としての地区道路がございます。それを決めさせてございます。さらには、それぞれのご家庭の地先道路として生活道路がございますという、そういうさまざまな道路ネットワークの中で道路というのは成り立っているということでございます。2010.1.22

都市計画道路は「おおよそ1キロメッシュ」で線を引いた——こんな説明です。地図を見てみると、確かにそうなのです。しかし、ではなぜ1キロなのか? 2キロや3キロではなぜだめだったのか? この問いに対して責任ある答えを出そうと思えば、そもそも都市計画道路はどのような量、性質、方向の自動車交通を担うべきかという検討が不可欠です。いわゆる「交通量推計」ですが、この交通量推計を初めて体系的に行ったのは、実は都市計画決定から10年以上たった1980年前後のことです。つまり、都市計画自体は根拠のある交通量推計に基づいて決められたものではないのです。これは、一つの歴史的な事実です。
しかも、1980年前後の推計の時は、モータリゼーションそのものへの見通しは極めて甘いものでした。このあと1981年に第一次、1991年に第二次、2004年に第三次と道路整備の事業計画を更新してきましたが、それぞれの時点の交通量推計は公開の場で科学的に批判検証されるということはありませんでした。2016年からの第四次事業化計画でも、交通量推計は行ってはいるものの、都はみずからその結果を公表することはついになく、私自身も計画決定後にようやく情報公開請求で入手できたというありさまでした。

話を156号線の説明会に戻します。これから新たに整備しようとする156号線は、いったいどのような自動車交通を引き受けようとしているのか? これは、道路が必要かどうかを考えるためにはきわめて当然の問いです。道路が単に自動車交通の利便性を高めるといったメリットだけでなく様々な負担や影響を及ぼすものでもある以上、なおさらこの必要性の議論は重要な意味を持ちます。そして、東京都の担当者は、156号線の交通量推計はしていない、四次事業化計画策定のための推計があるだけだと答えたのです。
しかし、四次の事業化計画の際の交通量推計は、率直に言ってきわめて精度の低い、もっと言えば粗雑なものでしかありません。そのことは、推計を行った調査報告書自体が事実上、認めています。

「本交通量推計は…それぞれの地域にクローズアップし、その地域における交通流動を精緻に表現したものではなく、東京全体を予測の対象とし、全ての都市計画道路が完成した状態や第四次事業化計画の優先整備路線が全て完成した状態における交通状況の概略(6,000台/日の上か下か等)を把握するためのものである。このことから、この結果をもとに環境影響評価等における計画交通量を定めるべきものではない。」都市計画道路の整備に関する調査委託報告書2016.3

つまり、せいぜい6,000台/日以上になるかどうかの評価に役立つくらいであって、個々の路線の計画交通量の評定には使えないと、調査自体が自ら認めているのです。実際に、156号線に関連した推計がどうなっているか、見てみましょう。(つづく)

コメント