「発熱外来」と「帰国者・接触者外来」 ~「新型コロナ」”リスク対話”(8)~

対話その6 「帰国者・接触者外来」とは何だったのか

「新型コロナ」に感染しているかもしれない。もしそう思ったら、あるいはそう見える人がいたら、どうするか。詳細なフローチャートを国や自治体が取りまとめていますが、ここは、とても分かりやすいので朝日新聞のウェブサイトからお借りして紹介します。

柱は次の3つです。

  1. 感染の疑いのある人の外来診療は、すべて「帰国者・接触者外来」が担当する
  2. 「帰国者・接触者外来」への受診は、帰国者・接触者相談センターが調整する
  3. 一般の医療機関では直接、診療は行わない(行えない)

この仕組みは基本的に現在も続いています。相談センターは、基本的には各保健所に設置されています。他方、帰国者・接触者外来については、実はどこに設置されているかも含め公表されていません。ただ、例えば東京都は感染症診療協力医療機関という独自の登録制度を以前から行っており、ここに登録されている医療機関が帰国者・接触者外来を開設しています。その数は、都の資料で確認できた限りでは「約80」となっています。
つまり、これまでの、厳密にいうと新型コロナが感染症法に指定されて以来の医療提供体制は①この80ほどの帰国者・接触者外来と②感染症指定医療機関等による入院医療の2本の柱で作られていたと言えます。ただ、①は外来といっても「診療」を行う場所というよりもPCR検査を受けるためのトリアージを担う場といった方が正確でしょう。PCR検査で陽性とされた場合は、原則として、感染症法に基づく「入院勧告」を受け、②の医療機関に収容・隔離されます。症状の程度にかかわらず、であることは以前に書いた通りです。

この医療体制は、疑いがあると思われる人はすべて相談センターにアクセスするという前提が成り立って初めて、適切な感染症対策としての意味を持ちます。たとえば、外国からの帰国者などで感染が疑われる場合、あるいは既確認の感染者の濃厚接触者を捕捉することが中心的な課題である場合は、このシステムは有効に機能しそうです。なぜなら、いずれの場合も行政が関与し振り分けることが可能であるからです。

一般の医療や市民生活から早期かつ的確に隔離し、感染症対応の専門医療に封じ込めていくことが、これまでの医療体制の主眼でした。そう考えると、帰国者・接触者外来という名称がその実にふさわしいものであることがよくわかります。それは、例えば海外からのウィルスの移入を水際で阻止する、あるいはクラスター対策等で接触者を追いかけ、拾い出し、”つぶして”行くこととが現実的に可能である局面の医療、とも言えます。

しかし、もし帰国者や接触者、厳密に言えば接触者として把握されている人以外の感染が疑われるようになった場合はどうするのか? 国や自治体がフォローしチェックすることのできる帰国者や接触者の範囲を超えて把握されない市中感染が広がった時に、この医療体制は果たして機能するのか?

このたぐいの疑問、問題意識は、すでにもう1か月も前からたびたび指摘されていたところです。一般の医療機関に様々な形で感染疑い例がアクセスしてくる。一般の医療機関の医師が診断し(本来は相談センターにつなげばよいはずだったのに)、帰国者・接触者外来への紹介を試みても、センターも帰国者・接触者外来も対応してくれない。あるいはキャパシティを超えて対応できなくなっている。そしてより深刻なことには、もともと疑い例としてフィルターに載せる要件自体がかなり厳しかったために、そもそもセンターにアクセスしないまま感染し発症する人たちが少なからずいることが確実だとわかってくる。そして、PCR検査の入り口を思いっ切り絞っていたために、逆に、市中の陽性者の早期発見の対応ができなくなってしまう…

「帰国者・接触者外来」は、封じ込め、あるいは水際作戦が効果的である時期であれば、それなりに機能する体制であるとは思います。それは、実は政府の行動計画やガイドラインがあらかじめ想定していたことでもありました。たとえば、政府の『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』にはこのような記載があります。

(ウ)発生時における医療体制の維持・確保
新型インフルエンザ等の国内での発生の早期には、医療の提供は、患者の治療とともに感染対策としても有効である可能性があることから、病原性が低いことが判明しない限り、原則として、感染症法に基づき、新型インフルエンザ等患者等を感染症指定医療機関等に入院させる。…新型インフルエンザ等に感染している可能性がより高い、発生国からの帰国者や国内患者の濃厚接触者の診療のために、国内で新型インフルエンザ等が拡がる前の段階までは各地域に「帰国者・接触者外来 」を確保して診療を行う…。(『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』 p22 全文は こちら

「原則として入院させる」ということがここにも書かれていますが、問題は後段です。帰国者・接触者外来は「発生国からの帰国者や国内患者の濃厚接触者の診療のため」であり、かつ「国内で新型インフルエンザ等が拡がる前の段階まで」がその役割であると明示されているのです。
では、国内で感染が広がっていったらどうするのか。こうです。

「国は、 都道府県等に対し、 患者等が増加してきた段階においては基本的対処方針等諮問委員会 の意見を聴いて、帰国者・接触者外来を指定しての診療体制から一般の医療機関でも診療する体制に移行することを要請する。」( 同 p57 )

つまり、帰国者や濃厚接触者以外から感染者が出てくる、いいかえれは「経路の追えない感染」が増えてくる、さらにいえば「市中感染」が始まってきた段階では、帰国者・接触者外来はその役割を終え、「一般の医療機関でも診療する」となっているのです。
また、こうとも書かれています。( 同 p66 )

地域感染期の地域( 都道府県 における対応)
①帰国者・接触者外来 、帰国者・接触者相談センター 及び感染症法に基づく患者の入院措置を中止し、新型インフルエンザ等の患者の診療を行わないこととしている医療機関等を除き、原則として一般の医療機関において新型インフルエンザ等の患者の診療を行う。
②入院治療は重症患者を対象とし、それ以外の患者に対しては在宅での療養を要請するよう、関係機関に周知する

ここにある「地域感染期」とは「各都道府県で新型インフルエンザ等の患者の接触歴が疫学調査で追えなくなった状態」と定義されています。まさに今、でしょうか。

この国の行動計画を受けて、都も同様の考え方を整理しています。こちらは、『新型インフルエンザ等保健医療体制ガイドライン』からの引用になります。これは都内感染期・第1ステージでの医療体制についての記述です。

→『ガイドライン』全文は こちら から

都内感染期においては、新型インフルエンザ等の診療を特別な医療提供体制で行うのではなく、内科や小児科など通常の感染症診療を行う全ての医療機関等で担うことになる。
このため、患者は新型インフルエンザ相談センターを介さずに、直接受診する。
外来診療については、原則として、かかりつけ医(診療所等)が対応する。
かかりつけ医において入院治療が必要と判断した場合も、通常の感染症診療を行う全ての医療機関が受け入れ、重症度に応じて入院受入可能医療機関または重症患者受入可能医療機関への紹介または搬送を行う。

今、感染のどのフェーズにいるのか。政府や各都道府県によってフェーズの定義も呼称も決して統一されてはおらず、とても分かりにくいのですが、東京に関して言えば、少なくとも緊急事態宣言が出されたのですから都内感染期であることは明らかでしょう。しかし、小池都知事がそのことを明示したのでしょうか。また、それに対応した行動計画に沿った医療体制の見直しに踏み込んだのでしょうか。都知事の発言をいろいろチェックしてみましたが、いまだ確認できていません。

「感染者は原則入院」「相談センター→帰国者・接触者外来が基本」という体制、方針はいわばなし崩しに見直しに入っているように見えてなりません。しかし、そうしたけじめのない、説明のない転換がいったい何度、繰り返されたことか。しかも問題は、医療体制に関するフェーズの転換は、一般医療における感染者、疑感染者の受け入れをどうしていくのかという大問題を提起しているはずなのに、そのことが率直かつ真剣に検討されているように思えないことです。そのことに、私は強い危機感を覚えます。すでにこれだけ院内感染が広がり、重症感染者の医療だけでなく、一般医療の崩壊が現実のものとなりつつある中で、いったいどうやって「新型インフルエンザ等の診療を特別な医療提供体制で行うのではなく、内科や小児科など通常の感染症診療を行う全ての医療機関等で担う」などと言えるのてしょうか。

杉並の「発熱外来」は、こうした私の危機感と通底する問題意識から出てきたもののように思えます。(続く)

|2020-04-15T17:26:37+09:002020年4月15日|コメントはありません

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