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感染対策の目的は? ~「新型コロナ」”リスク対話”(5)~

リスク管理の本題である「感染症対策」に話を進めていきたいと思いますが、その前に、”対話”の共通の土俵を再度、整理しておきます。

※ほぼ広く共有できるものに絞っているつもりですが、過不足がありましたらご指摘ください。

新型コロナウィルス感染症について
  • 咳、発熱、倦怠感、時に嗅覚・味覚異常など風邪の症状に似た症状が出る。8割は軽症のまま治癒するが、2割は高熱、肺炎など重症化し、5%は呼吸管理のためにICUでの治療が必要になる。また、検査で感染が確認された人の中でも17%が無症状だったとの調査もある(※1)
  • 高齢者や基礎疾患のある人の場合、重症化する割合が高い。肺機能が低下している人はリスクが高い。若い世代では比較的症状が軽く、また年少児の感染は相対的に少ないといわれる
  • 感染は飛沫や接触によるものが基本で、空気感染はないようだ。「無症状」の場合でも感染させることがあるとの調査もある。ウィルスは体内から出たのちも物体に付着した形で一定時間、”生存”している可能性がある
  • 感染した人の8割は、他の誰にも感染させていなかった(※2)が、密閉された空間での密接な接触がある場合、集団的に感染が広がることもある(クラスター)

※1「厚労省によると、…クルーズ船も含めた国内の感染者3500人のうち17%に当たる600人ほどが無症状だった」(東京新聞4月4日)
※2「2月26日時点で国内で感染が確認された110例を専門家が分析したところ、75%にあたる83人は誰にも感染させておらず、残りの27人も半数以上は1人にしか感染させていませんでした。」(デジタル朝日 こちら

検査と医療について
  • 現時点では、ウィルスの増殖・拡散自体を抑える薬(抗ウィルス薬)はない。また、いわゆるワクチンも開発されていない。生来の免疫機能による防御と対症療法が基本になる
  • 感染を確認する手段としては今のところPCR検査が用いられるが、精度には一定の限界がある
  • 1/28に感染症法(感染症の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づく指定感染症に指定された。指定された医療機関での医療とそのための費用の公費負担、医療機関からの届け出、積極的疫学調査などが義務付けられている
感染拡大の状況について
  • 大都市圏を中心に確認された感染者数が大きく増える傾向がみられる
  • 新たに確認される感染者の中には、感染経路の確認できない者の割合も増えてきている
  • PCR検査の適用を絞ってきたこと、検査体制が十分でなかったこと、さらにはごく軽症・無症状の感染者の存在が推定されることなどから、確認された感染者以外に少なくない感染者が出ている可能性がある
  • “三密”の条件のそろった空間でのクラスターの発生が続いている。また、院内・施設内感染が増えている。
医療について
  • 感染が確認された場合は、原則として指定医療機関またはそれに準ずる医療機関に入院させられる。都内の指定医療機関は12、ベッド数は118床。そのほかの医療機関の病床にも入院している(病院・病床の詳細は未確認)
  • 濃厚接触者、陽性から陰性になった人(陰転者)、海外の指定された地域からの帰国者・渡航者などは14日間の”隔離”を要請
  • 重症者の呼吸管理に対応できる施設、病床について(4/4未確認)

以上のような認識を基本の出発点として、では「新型コロナ」とどう向き合うのか。感染対策の目標、目的は何かを考えてみます。

対話その4 「感染」対策は何を目指すのか

今日4日、東京都は新たに118人の感染が確認されたと報じられています。「新型コロナ」に対する不安と影響が広がっています。そうでなくとも「緊急事態」や「ロックアウト」、「医療崩壊」といった、聞き慣れないけれどもその恐ろしい語感はしっかり伝わる言葉が飛び交い、欧米の悲惨な現状を伝える映像が繰り返し目に入るのですから、当然です。
「感染」の恐怖に対して、何とかしなければ、そんな気持ちも強まっています。政府や知事や専門家が繰り返し「行動変容」、つまりさまざまな自粛や注意を呼び掛けていることが、少しずつでも浸透してきているのでしょう。それ自体は、大切なことです。

しかし、あらためて基本から考えてみたい。私たちは、そもそも何を恐れ、何を目的として「新型コロナ」対策を取ろうとしているのでしょうか。例えば、マスクをするのは何のためでしょう。外出を「自粛」するのは? あるいは、イベントや会合の中止は? はたまた、学校の休業は何のため? 例えば「緊急事態宣言」は何のために出すのでしょうか。「ロックアウト」をすることで、何を実現しようとするのでしょう。
それらが意味がないなどと言っているのではありません。ただ、具体的に何を目的とし、どんな効果を期待したものなのかは、しっかりと頭に入れておきたい。実は、ここは当たり前に共通認識があるようでそうでもない。わかっているようで、わかっていない。「感染対策」と一言でいうけれども、それは、どこを目指し、何を目標にしたものなのでしょうか。

大きく分けると、「感染対策」には二つの目的、視点があると思います。つまり

  1. 感染そのものをしないようにすること
  2. 感染しても命が助かり、健康に戻れること

の二つです。

感染対策の目的 1.感染そのものを避けるために

「新型コロナ」が人から人への感染によって広がるものである以上、感染そのものを避けるためのいちばんわかりやすい手段は、感染源(感染者)であるかもしれない他人にいっさい近づかないようにすることです。そのためには、自分や家族が感染していないことを前提にすれば、まず外に出ないこと。外に出なければ、感染リスクは排除できるでしょう。
あるいは、外に出ても人に会わない、あるいは近づかないようにするということもあります。感染者の飛沫やその付着物などがその人から離れて感染リスクとなることがないとは言えないでしょうが、水や空気を媒介して無限に広がるような感染ではないので、人と接触する機会を注意深く排除すれば、感染リスクは事実上はゼロに近づきます。
外に出ない。人と会わない。これはわかりやすい感染防護策ですが、それが可能か、可能な人が社会にどの程度いるかははなはだ疑問です。人と接することで成り立つ仕事についている人、“接客”を生業としている人、そして人の暮らしや命を直接、支える仕事に携わっている人もたくさんいます。
少なくとも現代の市民社会は、まさに人の交流——経済活動、市民活動、福祉や教育、文化や芸術、あるいは友情や恋愛も含め多種多様で分厚い人と人との現実的な交流によって支えられています。本当に一人ぼっちで、自分の私的な空間の中だけで生きていくなどということは無理です。どんなにデジタル技術が展開し普遍化しても、またバーチャルな空間が広がり、リモートな交流の基盤が整っても、その真理は変わらないでしょう。

しかし、人と会うことが必要だとしても、防護策を講じることで自分を感染から守るということもあります。
感染者と極めて濃厚に接触することになる医療者などは、それにふさわしい厳重な防護策が必要になりますが、一般的な市民生活のレベルでの防護策としては、マスクや手洗いや換気や「ソーシャル・ディスタンス」など、いろんなことが言われていますね。もっと言えば、それぞれの人が自分の健康状態や疫学的な背景(感染者や濃厚接触者との接点があったかどうか、感染者の多い地域や場所に縁があったかどうかなど)をしっかりわきまえれば、人と会ったとしても、感染リスクは大きく減らせるはずです。あるいは、適切にPCR検査を組み合わせて感染・非感染のフィルターを豊かにすればさらに減るでしょう。
無症状の感染者からの感染もありうると言います。PCR検査も、100%確実ではないようです。そして、さまざまな防護策は、マスクにしても何にしても、それぞれに限界があります。したがって、人と会う(接触する)以上、感染リスクを完全に「ゼロ」にすることは不可能でしょうが、やり方と工夫次第でリスクを限りなく小さなものにすることはできるはずです。

そして、感染そのものをしないようにすることとともに、とても大切なのはたとえ感染しても致命的にならない、治癒する(健康に戻れる)ようにするということです。「かかっても怖い病気ではない」と思えるようになるということは、実は最大の感染症対策の一つでもあります。
長くなりましたので、続きは改めて。

※“リスク対話”のテーブルです。ご意見をお待ちしています。 ※できるだけ根拠をたどりながら記事を書いていますが、事実と違うという点もあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

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