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池尻成二事務所 〒178-0063 練馬区東大泉5-6-9 03-5933-0108 ikesan.office@gmail.com

「感染者」はどのくらいいるのか? ~「新型コロナ」”リスク対話”(2)~

新型コロナウィルスに感染しても、ごく軽症もしくは無症状で終わる人が多数いるようだ。そうだとすれば、実際に感染している人の数は、公表されている「感染者」数よりもずっと多いかもしれない。

上のグラフは、東京都が行った新型コロナの検査実績の推移です。ここ数日はぐっと増えていますが、それまではずっと1日100件以下で推移してきました。累計の検査件数はまだ3000件に届きません。検査を始めてから2か月近く経ち、そして1000万人を超える人が暮らす東京で、この数字です。少ない。そう感じる人は多いはずです。
さて、この数字を頭に置きながら、そもそも新型コロナの「感染者」は何人くらいいるんだろう? ということを考えてみようと思います。

東京都が発表している感染者の累計は、約440人になります。また、練馬区も、今日から区内の感染者数の公表を始めました。これまでは都が一括して公表し、各自治体ごとの数字は非公表扱いになっていましたが、都知事の姿勢を受けて区としても区民の危機感を促したいという趣旨からの対応のようです。
公表の良しあしはともかく、内容はこういうものです。

「練馬区において新型コロナウイルス感染者が新たに3月28日に1名、29日に2名確認され、練馬区における感染者数は累計16名となりました。」

さて、「感染者」はいったい何人なのでしょうか。東京は440人、練馬は16人…本当でしょうか?

対話その2 「感染者」って、そもそも誰のこと?

感染者とは、新型コロナウィルスに感染している人のことである。

普通はこう考えます。しかし、実際には「感染者」とはPCR検査という方法を使って検査を受け、陽性、つまりウィルスが検出された人のことです。この二つは、実は幾重にも違っています。つまり
①感染していても検査を受けていない人は「感染者」には含まれない
②感染していても、検査で間違って陰性とされた人も「感染者」には含まれない
からです。

まずは②の点から。

PCR検査の精度については、偽陰性や偽陽性が一定の割合で起きることは広く指摘されています。正確に陽性の判定が出るのは7割くらいという評価もあるようです。

PCR検査は感染しているのに陰性となる「偽陰性」や感染していないのに陽性と判定される「偽陽性」が出ることが避けられません。100人の感染者のうち最大でも約70人しか検査では陽性にならないとみられています。本当は感染しているのに、検査結果が陰性だったら感染を広げる可能性があります。本当は感染していないのに陽性になれば、隔離のため入院することになり、病床不足につながりかねません。
(聖路加国際病院QIセンター感染管理室マネジャー・坂本史衣さん 朝日新聞3.25)

検査の手法自体が確立の途上ですし、現在の精度に限界があるのは仕方のないことだと思います。しかし、精度に限界があるということは、検査を受けたとしても見落とされた感染者が少なからずいるということでもあります。

ついで①の点。
どういう人がPCR検査の対象となるかについては、厚生労働省が厳格な基準を示してきました。

→『新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について』(依頼) こちら

当初は検査の対象となる「感染が疑われる患者」は、確定患者との濃厚接触者、37.5℃以上の発熱と呼吸器症状があり、かつ流行地域に渡航していた人もしくはその濃厚接触者を中心とした人に限られていました。しかし、海外渡航者でない感染者の発生が確認されるようになる中で、2月17日付の上記の「依頼」が出され、こんなふうに対象者が見直されました。

・ 37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、入院を要する肺炎が疑われる者(特に高齢者又は基礎疾患があるものについては、積極的に考慮する)
・ 症状や新型コロナウイルス感染症患者の接触歴の有無など医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者
・ 新型コロナウイルス感染症以外の一般的な呼吸器感染症の病原体検査で陽性となった者であって、その治療への反応が乏しく症状が増悪した場合に、医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症と疑う者

追記 2020.03.31
2月21日付で、日本感染症学会が『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)―水際対策から感染蔓延期に向けて― 』という文書を発出しています。この中には、2月17日のPCR検査対象者拡大の背景にある考え方がまとめられています。
「残念ながら、2月 15 日以降、日本各地で感染経路が特定できない感染事例が報告され始めたのはご承知の通りです。このような状況の中で、地域の状況を見ながら、地域単位で感染対策のフェーズを水際対策期から感染蔓延期へ移行させていくことが必要になってきます。……このような感染症の蔓延期においては、重症例に焦点をあてた医療の実施が重要な戦略となってきます。感染蔓延期においては、感染経路が追えないことから中国からの訪日客との接触のない症例も対象になります。」
(日本感染症学会『水際対策から感染蔓延期に向けて』)

この基準では、以前のように「海外渡航」の経過がなくても、また「濃厚接触者」でない、つまり感染者との具体的な接触が確認できない場合でも、症状によってはPCR検査が受けられるようになりました。東京都の検査実績が2月の下旬から増えたのは、この見直しが影響していると思われます。
ただ、そもそも検査の体制、キャパシティに限界があるからか、検査が必要だと医師が判断してもなかなか検査を受けられないという声はしばしば聞かれていました。3月に入って、検査が医療保険の適用となり、また民間の検査機関でも検査することができるようになりました。体制が整えば、検査の実績は今後、さらに増えていくのではないかと思います。新聞報道では、感染が判明したケースの3分の1以上が民間の検査によるものだそうです(※)。検査を受けられないために感染者数が抑えられていたという面は否定できそうにありません。とまれ、検査体制が拡充されたのは大切なステップです。

※「民間検査が進んたことが感染者の増加を押し上げたと見る指摘もある。都によると、3月6日に検査が保険適用されて以降、民間病院名執による検査で感染が判明したケースが増えている。26日は47人のうち20人が民間検査で判明している。11日以降公表している民間検査の感染判明は26日までに計67件。11~26日の全体192件の35%を占める。」(東京新聞3/28)

しかし、実は大きな問題が残っています。

もし新型コロナに感染した人がほぼ全員、はっきりした症状を呈し、ほぼ全員が検査を受ける、受けられる体制が整ってくるということであれば、今後、この検査で確認された感染者は実際に感染している人の総数とそう違わなくなるでしょう。
ところが、実際には感染が確認された人のうちでも8割は軽症で、入院が必要なのは2割、さらにその中で5%が呼吸管理など集中治療室での治療が必要と言われているのです。軽症の人は「そのまま仕事に行けるくらい」とは、治療に当たった医師の証言です。そんな軽症の人までなぜ入院を ? と思われそうですが、それは、症状の重症度ではなく、病気が指定感染症であり、原則として感染が確認されれば隔離が求められているからです。

軽症の場合の症状は軽い発熱や咳くらいですから、通常の風邪とあまり違いません。また、症状がほとんど出ない無症状の感染者の存在も確認されています。そうした人々は、自分が濃厚接触者、つまり感染が確認された人と密度の高い接触をしていたわけでない限り、そもそも検査を受けようなどと思うこと自体がないかもしれません。これまで、政府自身が検査へのアクセスを制限するようなアナウンスを続けてきたことも、結果として、検査を受けない感染者を増やしてきた懸念もあります。

※政府は(1)風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている、(2)強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)があるなどに該当しない場合は、検査を受けず自宅で療養することを促してきた。
(厚生労働省『新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安』2020.02.17)

つまり、あえて保健所や相談センターにアクセスし、あるいは専門外来を訪れ、かつ検査が必要だ認められた人は、実際にウィルスに感染している人よりもずっと少ない可能性があるのです。そうなると、公表されている「感染者」数も、本当に感染している人の数と大きく異なっているということになってしまいます。

「感染者」は、実は「検査」のあり方によって見え方も実数も大きく変わりうるものです。そして検査のあり方、目的や対象をどうするかは、感染防止の戦略と深く関係してきます。感染経路をたどることができる限りは、これまでのような検査でもよかったかもしれません。しかし、不特定の経路で感染が広がっているとしたら、そして軽症者や無症状の感染者の存在が感染リスクを高めているとしたら、これまでの検査では感染の広がりを把握することも、感染を的確に防止していくことも、困難です。

“対話”を進めるために必要な材料

      1. PCR検査の精度管理
      2. 民間での検査の実態と検査体制

池尻の考え

感染経路をたどりながら、患者を新型コロナに対応できる専門的な医療機関につなぐという意味では、これまでの検査の在り方にも一定の合理性があったかもしれないが、経路をたどれない感染が増えている中、市民社会の中での感染の広がりの全体像をとらえ、積極的に感染者を拾い出していくためには、検査の在り方自体の見直しが必要ではないか。

※“リスク対話”のテーブルです。ご意見をお待ちしています。
※できるだけ根拠をたどりながら記事を書いていますが、事実と違うという点もあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

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