これは、練馬区情報公開条例の第1条です。公文書の公開は、「区政への区民参加の推進と区民の信頼の確保を図」るために欠かすことのできないものです。そして今、この公文書の公開の在り方が問われる事態が起きています。
問題になっているのは、<練馬区立大泉第二中学校の教育環境保全および都市計画道路の整備に関する有識者委員会>の会議資料です。この有識者委員会は、「練馬区立大泉第二中学校の教育環境保全ならびに都市計画道路補助第 135 号線および補助第 232 号線の整備について、都市計画、教育、建築等の専門的な見地から事業の方向性および方策について検討し、その実現に向けて区に提言・助言を行う」ことを目的として設置されたものですが、今年に入って5年ぶりに再開され、練馬区が取りまとめようとしている大泉第二中の再建案、いわゆる『取組方針案』の議論に入っています。
これまでもたびたび触れてきたとおり、そして議会や地域で力を込めて議論してきたように、大泉第二中学校(大二中)の校庭を東西南北に分断する位置に2本の都市計画道路の線が引かれています。こんな場所に、こんな道路を造るなんて信じられない――たいていの人がそう感じるその道路を、練馬区は、何としても通すのだと言い張り、20年にわたって地域を振り回し続けてきました。
→『大泉第二中――道路に振り回された20年』は こちら
そんな中での、新たな取り組み方針を取りまとめる動きです。いやでも注目しますし、区の内部の検討資料ならともかく、専門家やPTA関係者なども含む委員会での資料ですから、ぜひとも入手したいと公文書公開請求を出したのですが、区は「非公開」の決定を返してきました。この非公開決定は、最初に紹介した区の情報公開条例の趣旨、理念に照らしても、とうてい受け入れられるものではありません。
8月19日、非公開決定の取り消しを求めて「審査請求」を起こしました。以下、請求理由の全文を転載します。
「非公開」決定の取り消しを求める
処分取り消しを求める理由は以下の通り。
非公開決定通知書において、区長は、非公開とした理由について以下のように記している。
公開できない理由
●練馬区情報公開条例第7条第4号に該当
上記請求内容に基づくつぎの公文書には、平面図等の大泉第二中学校の再建案が具体的に記載されています。これらは、実施機関において審議、検討している段階の情報であり、意志形成過程における未成熱な情報です。これらを尚早な時期に公にすることにより、区民の誤解や憶測を招き、関係者の間に混乱を生じさせるおそれがあるため非公開とします。
・第21回練馬区立大泉第二中学校の教育環境保全および都市計画道路の整備に関する有識者委員会 会議資料のうち、資料4
念のため、練馬区情報公開条例(以下、情報公開条例)第7条第4号を再掲する。
(4) 実施機関ならびに国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の内部または相互間における審議、検討または協議に関する情報であって、公にすることにより、率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ、特定の者に不当に利益を与えもしくは不利益を及ぼすおそれまたは不当に区民の間に著しい混乱を生じさせるおそれがあるもの
しかし、以下の点などから、今回の非公開決定は条例を不当に適用し、情報公開の理念、意義を損なうものであって、受け入れがたい。
「実施機関の内部」について
情報公開条例第7条4号を適用するにあたって、まず前提となるのは、審査請求人が公開を求めた資料が「実施機関ならびに国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の内部または相互間における審議、検討または協議に関する情報」に該当するか否かということである。
『情報公開制度運用の手引』(以下、『手引き』)によれば、「実施機関ならびに国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の内部または相互間」とは、つぎのとおりである。(27ページ)
- 実施機関の内部
- 国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の内部
- 実施機関の相互間(区長と他実施機関の相互間等)
- 実施機関と国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の相互間
- 国、独立行政法人等、他の地方公共団体および地方独立行政法人の相互間
今回の案件についていえば、2~5は明らかに該当していない。では、1 実施機関の内部における審議、検討または協議に関する情報には該当するのか。
審査請求人が請求し非公開とされた資料は、練馬区立大泉第二中学校の教育環境保全および都市計画道路の整備に関する有識者委員会(以下、有識者委員会)の第21回会議に提出されたものである。この有識者委員会は、はたして実施機関(練馬区長)の「内部」の組織であると言えるか。
練馬区には、各条例で設置された本来の附属機関のほかにも、区長もしくは各部・課等が要綱等に基づいて設置した協議会、懇談会、委員会等が数多く存在する。
これらの会議体は、情報公開条例上の実施機関である区長(その職務代理者をふくむ)が設置したものであるが、しかし、厳密に言えば、実施機関の内部組織ではない。なぜなら、会議体の多くは学識経験者や公募の委員など、区長の指揮命令に服しておらず、区の職員が負うべき法令上、条例上の責務を負うことのない者を構成員に含んでいる。区から独立して判断し、あるいは意見を述べることを期待されている以上、当然のことであるが、そうである以上、附属機関とその会議を「内部」のものとみなすことはそもそも無理がある。
『手引』では、実施機関の定義として、以下のような記述がある。(3ページ)
(2) 審議会等執行機関の附属機関は法的には独立の実施機関となりにくいので、執行機関が法的な実施機関となる。
もし附属機関等が実施機関の内部のものであるとすれば、それが法的に独立した実施機関となりうるかどうかといった問題は発生しようがない。附属機関等は執行機関=練馬区長の内部の組織でないからこそ、情報公開条例の運用上の解釈としてこうした記述があると理解する。
附属機関等は実施機関の内部組織であるのかどうか、条例上の解釈の基本に触れる点で、今回の決定は適切な判断に立っているとはいいがたい。
仮に、情報公開条例の運用上、附属機関等の会議体については区長が実施機関にあたるものとみなすことがありうるとしても、それは、附属機関等に提出された資料や情報が実施機関の内部における検討過程の情報と同様に扱われてよいということにはならない。単純に考えても、大半の附属機関等には、学識経験者や一般の公募区民、様々な区民団体の代表者など、区の外部の者が多数参加している。有識者委員会についていえば、外部の学識経験者のほか、PTA関係者も委員として参画している。これらの者は、区の意思決定に関与する権限や責任を負っていないのみならず、秘密保持など公務員としての規範や法的な義務に直接、拘束されてもいないはずである。公募区民やPTAが知りうるにもかかわらず、なぜ一般の区民はその情報に触れることが許されないのか。
また、附属機関等に提出する資料については、各所管の責任者の決裁を経ていると承知する。これもまた、区の内部的な検討における一定の節目として、区以外の者に資料を提示するからこそ必要となっているものであり、前述の点も含め、そもそも条例第7条4号をもって非公開とすることは不当である。
「著しい混乱」について
第一に指摘した点を置くとしても、つまり非公開となった資料が区の「内部における審議、検討または協議に関する情報」に該当したとしても、それが非公開にふさわしいものであるかについての評価もまた、とうてい納得のできるものではない。
条例7条第4号の規定のうち、今回の非公開決定の根拠となるのは「公にすることにより、…不当に区民の間に著しい混乱を生じさせるおそれがある」の部分となる。すなわち、①「著しい混乱」が生じうること、かつ②それが不当に引き起こされることが、当該条文を適用する際の要件となっている。
しかし、非公開決定は、「区民の誤解や憶測を招き、関係者の間に混乱を生じさせるおそれがある」ことをその理由としている。条例が非公開決定を容認しているのは「著しい混乱」が「不当に」生じる恐れがある場合であって、一般的に「混乱」を生じさせるというだけでは非公開とすることは認められないはずである。
検討過程の情報は、それが検討途上であるというだけで、つまり未確定で変更の可能性があるというだけで、常に一定の「混乱」を惹起する恐れはある。しかし、それだけでその情報を非公開にすることができるとしたら、およそ検討途上の情報を広く公開することなどはありえないであろう。そうした事態になれば、情報の適切な公開によってはじめて可能となる区民の区政への参加・参画が大きく制約されるからこそ、条例は「不当に」「著しい」混乱が生じうる場合に限定したのではないか。
情報公開条例が非公開の条件としている「著しい混乱」を根拠としていない以上、本件非公開決定は不当である。もし実施機関が「著しい混乱」が生じる恐れがあると主張するのであれば、非公開決定をやり直し、かつ、どのような混乱が想定されるか具体的に示すべきである。
ちなみに、他の附属機関等の例を見れば、検討過程の途上にある資料、情報が公開のもとに提供されることはごく一般的に見られることである。様々な行政計画の策定プロセスの中では、素案に至る前段の「骨子」や「たたき台」のレベルから区は自らの考え方を示している。それらの中には、事業の実施、新設・改廃に係るものも少なからず含まれており、当事者・関係者の間に「混乱」を生じさせかねないものも少なくない。また、まちづくりに関する会議体では、住民の権利制限に係るような情報、つまり「混乱」を生じさせる恐れが高い情報であっても、早い段階から区はその考え方を提示している。そして、これらは基本的にすべて公開の場で議論され、かつ、資料も公開されている。
なぜ、今回の有識者委員会の資料は公開できないのか。区が自らの判断を閉鎖的な環境の下で、住民や議会にさえ知られない形で取りまとめたいという、およそ情報公開条例がその第1条でうたった目的、精神とは相反する思惑がそこには動いているのではないかという疑念を押さえることは難しい。
第 1 条 この条例は、区民の知る権利を保障し、公文書の公開を請求する区民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、練馬区(以下「区」という。)が区政に関し区民に説明する責務を全うし、もって区政への区民参加の推進と区民の信頼の確保を図り、公正で開かれた区政を実現することを目的とする。
『手引き』
本条は、条例の解釈指針となるものである。条例の各条項の解釈および運用は、常に本条に照らして行わなければならない。
「区政に関し区民に説明する責務を全うし、もって区政への区民参加の推進と区民の信頼の確保を図り、公正で開かれた区政を実現する」ことは、練馬区政推進基本条例でもはっきりとうたわれた区民の参加・協働を柱とした区政運営の、欠かすことのできない柱である。「実施機関において審議、検討している段階の情報」であっても、可能な限り公開していくことが情報公開条例の趣旨であることには実施機関も異論はないはずである。まして、内部的な検討が一定の節目を迎え、外部の者も交えた附属機関等に提出された場合には、その資料は原則として公開されるべきである。
審査請求人は、当然ながら、当該請求資料がどのようなものであるかを知りえない立場に置かれている。したがって、当該資料の公開が一体どのような意味で、またどの程度の蓋然性をもって「著しい混乱」につながるのか、評価・判断することもかなわない。こうした状況で非公開決定を唯々諾々として受け入れていけば、行政による恣意的な情報管理と密室化につながりかねないことを強く危惧する。
以上の理由から、非公開決定の取り消しを求め、審査請求を行うものである。
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