宗教としてのイスラムは、西欧の大国に抑圧され差別されてきた国、地域、民族、階級等々のよりどころ、シンボルのようにもなっており、そうしたものとして世俗の力を持ち、あるいは主張しつつあります。そして、解決されない抑圧や差別、終わることのない戦火と銃声は、しばしば容易に人々を――すべてではなくとも、誰かを、“テロ”に走らせます。
イスラムの中から不断に「テロ」が育ってくる社会的歴史的背景を真剣に考えることが私たちの責任であり、もっと言えば、みずから「テロ」の誘因を作り出している西欧の大国の陣形に日本があえて入り込もうとしていることをきちんと批判できなければ、私たちの責任は果たせないのではないか。「テロは許されない」という一つの真実は、イスラムに帰依する人々が抱えた困難や矛盾を取り除こうとする真剣な努力というもう一つの真実としっかり結びついてこそ、誠実な言葉になる。私は、そう思います。
IS( イスラム国) による日本人人質事件に対する声明
日本ビジュアル・ジャーナリスト協会( JVJA )はフォトジャーナリストやビデオジャーナリストの団体です。
私たちは、イラク戦争とその後の占領下において、米英軍を中心とした有志連合軍による攻撃がイラク市民にどんな災禍をもたらされたかを取材、テレビや新聞などで報道してきました。また、イスラエルのパレスチナ・ガザ地区への無差別攻撃に晒された市民を取材し、テレビや新聞等で報道してきました。私たちの報道はけっしてアメリカやイスラエルの攻撃を肯定するものではありませんでした。
私たちジャーナリストが、現場での取材を通して理解した戦争下の住民の現実だったからです。同時に、報道を通して私たちはあらゆる暴力を批判してきました。日本政府の戦争政策に対しても批判してきました。イスラエルのガザ攻撃に対しても、私たちは強く批判してきました。私たちは現在の安倍政権の戦争を肯定するかのような政策を、報道を通して批判しています。
現在、IS(イスラム国)が拘束している後藤健二さんには、取材の現場で会ったことがあります。後藤健二さんもまた、イラクやシリアでの戦火に苦しむ市民の現状をテレビやインターネットで報道してきました数少ないジャーナリストです。湯川遥菜さんは、私たちと直接の接点はありませんでしたが、報道によると個人的な興味から「イスラム国」に入ったようです。
私たちは、暴力では問題の解決にならないというジャーナリズムの原則に立ちます。武力では何も解決されない現実を取材をとおして見てきたからです。「交渉」を含むコミュニケーションによって問題解決の道が見つかると信じます。
私たちは、IS(イスラム国)の皆さんに呼びかけます。日本人の後藤さんと湯川さんの2人を殺さないように呼びかけます。人の命は他の何ものにも代え難いものです。イスラムの教えは、何よりも平和を尊ぶことだと理解しています。
私たちは、同時に日本政府にも呼びかけます。あらゆる中東地域への軍事的な介入に日本政府が加担することなく、反対し、外交的手段によって解決する道を選ぶようにと。
2015年1月20日
日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)
コメント