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「人への投資」 ~区議11年、何を語ってきたか(その4)~

 間もなく、6月2日から区議会の第2回定例会が開催されます。「前川区政」が、議会と区民の前にはっきりと姿を現します。さて、志村区政から何が変わり、何が変わらないか?
 志村区政と言えば「行政改革」、そしてその柱が「委託化・民営化」でした。「委託化」によって現場の体制が一変することは利用者――しばしば弱い立場の子どもたちや障害者に大きな負担を与えただけではありません。「委託化」の財政効果自体が限界あるものでしたし、職員削減に伴うさまざまな弊害も明らかでした。「委託化・民営化」の中で、区職員の存在とその努力は、いつでも「民間」に置き換えられるもの、安上がりにできるもの、削られるべきものという否定的な視線にさらされ続けてきました。4500人に上る職員を大切な区民の財産として生かし、のばし、区民のためにしっかりと仕事をしてもらおうという姿勢は、この10年ほど区政の中では明らかに後退し、公務員としての規範意識やモラル、意欲の後退はひしひしと感じられるようになってしまいました。
 そもそも私は、「委託化・民営化」を支えた思想に強い違和感を感じ、そしてそれを議会の言葉として刻み続けてきました。一言で言えば、「投資こそすべて」と言わんばかりの思想です。もちろん、ここで言う「投資」とは、経常的に支出され消費されるのではなく、資産として残っていくような支出、要するに建物や道路などの公共投資です。人件費や扶助費は削減・抑制されなければならない、投資的な支出こそ望ましい…こうした主張は、形を変えテーマを変えながら、何度となく区の理事者が口にしてきたものです。
 これに対して、私はあえて「人への投資」という主張を対置してきました。たとえば、2009年3月、本会議における予算案の反対討論で私はこう主張しました。

 新年度予算では、厳しい財政事情の中、170億円を超す基金を取り崩し、積極財政に転じました。しかし、その積極性は、第一に主として、10%近い投資的経費の伸びを確保することに向けられました。投資、言いかえれば、公共事業こそ積極的で意義あるものであり、行政の最優先の課題であるという主張が何度となく繰り返されます。逆に、人件費、扶助費等々の経常的経費は財政硬直化の要因であり、少ないほど望ましく、削減こそが課題であるという主張が当然の常識であるかのように持ち出されます。
 しかし、人への投資というものがあります。だれもがしっかりと学び育ち、生き生きと働き、温かく産み育て、すべての人がその力を十二分に発揮できるようになれば、どれほどこの社会は豊かになるでしょうか。それは、道路や橋や建物のように目には見えないかもしれませんが、しかしどんな堅牢な構造物にも負けないくらい長く、強く、世代を超えて受け継がれていくべき財産です。
 今、日本の社会は、社会資本の未整備よりも、むしろ人々が疲弊し、孤立し、すさんでいることによってこそ危機に瀕しています。社会の貧しさは、富が絶対的に枯渇しているからではなく、富の偏在と社会のあらゆる領域で広がりつつある格差によってこそ実感されつつあります。人を育て、コミュニティを育むことは10年がかりです。公正・公平で支え合いと協働を基礎とした社会をつくり出すことは20年がかりです。そのくらい息長く、腰を据えて地域社会と向き合うことのできる練馬区であってほしいと願います。
 新年度予算は、厳しい社会経済情勢の中で、多額の基金を取り崩してとりあえずの財源を確保するという緊急避難的な色彩の濃いものとなっています。しかし、区長自身が口にする100年に一度の危機が真実ならば、今年はその始まりであって終わりではありません。今後も建設事業などへの投資を優先する財政運営が続けば、来年度以降、区民生活への深刻なしわ寄せは不可避です。区民生活の防衛と人への投資に重点を移した財政施策への抜本的な転換を重ねて求めて、討論といたします。

 この思想は、これからも私が区政、いや政治に向き合う際のある意味で原点となるはずです。

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