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道路が「主役」!?  ~ゆがむ練馬の“まちづくり”~

「道路はまちづくりの主役」――前川区長の言葉です。

道路はまちづくりの主役でありながら、不幸なことに永い間、敵役を演じさせられてきました。車優先の環境破壊と生活軽視の元凶とみなされたのです。しかし、本来、道路は環境・防災・景観など都市生活に不可欠な機能も担っています。街路樹をはじめ、豊かで質の高いみどりを楽しむ舞台ともなります。
時代の転機にあって、発想を転換しましょう。道路を作ることがみどりを増やし、生活を豊かにする。目標を高く掲げ、住民の皆さまの理解をいただきながら、粘り強く取り組むつもりです。利害関係が複雑な事業ですが、まちの未来のために行政は逃げてはいけない。心に銘じています。   (練馬区報2014.12.21)
目標を高く掲げ…逃げてはいけない…いささか滑稽ともいえる力みと高ぶりがうかがえるこの文章を読んで、私は、何十年もタイプスリップしたような感慨にとらわれました。
道路を「防災」や「緑化」などとセットで語るのは、決して目新しい発想でも、斬新なビジョンでもなんでもありません。戦後の復興計画の中で現在の都市計画道路の基本となる画が描かれた時から、道路はいつも災害対策や沿道緑化、あるいは都市景観等々など“複合的”な価値や意義をもつものとして語られ続けてきたのです。しかし、どんなに副次的・二次的な価値を強調しようとも、道路は道路であり、道路としての本来的な必要性と一義的な役割はかつても今も、自動車交通の確保です。とりわけ都市計画道路は、広域の自動車交通の必要と切り離して語ることは絶対にできません。
他方で、緑も防災も景観も、道路とは別に、独自の事業や施策の課題として立てられるし、立てることこそ本来のあり方だということもまた、繰り返し指摘されてきたことです。そして、まさにこうした視点から、道路の必要性と優先度をめぐる鋭く、また歴史的な意味を持つ議論が続けられているのであり、道路の是非についての住民の異議申し立てが続いているのです。道路に対する批判、異論をまるで清算・排除されるべき狭量な議論、古い発想であるかのように言う区長の物言い、あるいは姿勢は、異様であるだけでなく、この時代の自治体の長として情けない。道路をめぐる現実の議論の広がりも奥行きも、区長には見えていないのでしょうか。
都市化とモータリゼーションの時代の入り口ならまだ知らず、少なくとも、この時代、この練馬の町で、道路が「まちづくりの主役」だなどという認識をためらいもなく振りかざすのは、とんでもない勘違いです。まちづくりという概念自体が、狭い意味での都市基盤の整備をはるかに超えて、意匠や景観、産業や交流、コミュニティから文化や共生なども視野に入れたものに再編成されてきたことは、自治体行政の常識です。「まちづくり条例」という名を冠しつつ自治の基本を書き込んだ条例も、全国を探せばいくらでもあります。
まちづくりの中で道路にしかるべき役割が与えられるべきだとしても、それは、都市基盤にかかわる部分の、そのまた一つの柱としての役割以上ではありません。まして、新設の都市計画道路、しかも都がみずから行う必要性を認めず、区として施行することになった補助幹線道路よりも優先すべき身近な地域の道路課題は、多数あります。「道路が主役」だなどと叫び、新設の都市計画道路に異例なほどの優先順位を与える前川区長の姿勢は、そもそもまちづくりの何たるかを大きく取り違えていると言わざるを得ません。少し先走りをしました。「道路がまちづくりの主役」と語る前川区長のビジョンの中では、その言葉通り、都市計画道路を柱とした道路事業は際立って具体的かつ明確に書き込まれています。(続く)

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