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引き下げられる「指定管理」の基準 ~図書館の場合~

区立施設に本格的に指定管理制度が導入されて、ちょうど10年になります。10年も経つと、課題も環境も、ずいぶんと変わります。指定管理が一つの事実となり、入り口の是非論とは別に、現にある指定管理をどうするかという問題にしっかりと向き合うことが求められるようになりました。同時に、10年は一つの節目。そもそも指定管理を導入した意味や意義は何だったのか、その結果はどうなのか、「検証」の時期でもあります。

そんな問題意識で、図書館の指定管理の資料をあれこれと見ていました。そして、驚きました。指定管理の基準、とりわけ従事者の資格要件が大きく引き下げられているのです。
区立図書館で最初に指定管理を導入したのは、南田中図書館でした。公募選定が行われたのは2008年になります。この南田中図書館で、従事者の資格として区はどんな条件をつけていたか。指定管理者と交わす協定書の細目に、記載があります。そこにはこんな条件が書いてありました。

①全従事者の3割以上が常勤であること
②リーダー的な役割を果たすものとして図書館勤務経験5年以上で、レファレンス業務の経験が豊富な者を2割以上配置すること
③学校図書館支援員の連絡・調整を行う職員は、図書館での勤務経験が5年以上、学校支援に対して十分な力量および見識を有すること
④一般の図書館支援員は、図書館での勤務経験が1年以上あり、児童および青少年向け図書に関する知識を有すると

非正規雇用に歯止めをかける、図書館業務の生命線ともいえるレファレンスの経験を大切にする、学校図書館支援員には特段の経験を求める…いずれも大切な要件です。ところが、どうでしょう。2つ目3つ目と図書館の指定管理を広げる中で、これらの要件はいつの間にかなくなってしまったのです。これって、図書館サービスの「質」がないがしろにされてきたということではないでしょうか…
指定管理を導入しようとしていたころ、直営の下で培われてきた“サービス”(支援、処遇、対応…)の「質」をどう維持するかということに、大きな関心と注意が向けられてきました。批判的に取り上げる側だけではありません。指定管理を進めようとする区自身も、そうでした。指定管理者を選定する際の情報の公開のあり方、選定の考え方や手続きも、ずいぶんと慎重でていねいでした。
しかし、今は違います。“サービス”の評価は、所管課長の書類によるモニタリングをベースにし、表面的な利用者アンケートでの満足度が評価の決め手として無批判に持ち出されます。区議会の委員会に提出される選定資料も、形式的なものになっていき、よほど意識的に調査をかけない限り実質的な検証は難しくなりました。区民に直接触れる区政の現場は、今や区の職員以外の人が担うことが当たり前になり、職員の現場感覚は後退し、現場の中でこそ知ることのできる区民のニーズや事業の課題はいくつものバイアスを経なければ伝わってこなくなりました。そして、「質」をどうしっかりと担保するかという関心や問題意識が後退する一方で、指定管理者を見つけやすくするために、あるいはいろんな企業が参加しやすくするために、なし崩しで募集要件の引き下げ・緩和が進んできたことを、この図書館の件は物語っています。
図書館だけではないかもしれません。よくないことです。

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