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「組織改正」の危うさ ~区議会での反対討論から~

 区議会の第4回定例会が終了しました。会期末には、幹事長会や各会派間の非公式なやり取りの中で“すったもんだ”が続き、最終日はもしかしたら徹夜か?という構えでいたのですが、結果的には本会議が2時間遅れで開会となったものの、会期延長もなく閉会となりました。焦点は「議員定数」でした。議員定数をどうするか、次の議会に向けて大きな懸案として残ったままです。
 最終日の本会議では、組織条例の改正案と男女共同参画センターの指定管理者指定議案が討論-採決となり、賛成多数で可決されました。私の会派はどちらも反対の立場、私は組織改正の方で討論を行いました。とっても地味なテーマ、関心もわきにくいし問題の所在もつかみにくいテーマですが、しかし、大きく言えば「自治」の形を左右するテーマです。大阪の某知事→市長もそうですが、「組織」は地方政治の大きな争点です。とりわけ教育委員会制度。練馬区の組織改正も、違った方向ではあれこの教育委員会制度のありように深く関わるものでした。また、障害を持った子どもたちへの支援の原則に触れる問題も、そこにははっきりと影を落としています。組織改正に関する私の反対討論を以下に転載します。読んで頂けると嬉しいです。

 生活者ネット・市民の声・ふくしフォーラムを代表して、練馬区組織条例の一部を改正する条例に対して、反対の立場から討論を行います。
 本議案に反対する第一の理由は、いわゆる「子ども」分野を教育長の指揮監督下に置くことへの疑問です。議案は、区長がみずから管理執行してきた子育て関連の事務を教育委員会に委任、さらに教育委員会から教育長に再委任することを前提としています。


 区の説明によれば、委任においては、委任したものは「委任した権限に関わる事務を処理する権限を失う」とされています。つまり、保育や学童保育、様々な乳幼児支援の事業については、この組織改正によって区長は管理監督する権限を失い、教育長がその権限を一手に行使することになります。これは、たいへん大きな問題をはらんでいます。
何よりも、区長と教育長の置かれた立場の違いです。区長は、選挙で選ばれています。区長の立場と力はたいへん強いものがありますが、しかしそのよって立つ権原は直接に区民の信託に根ざしています。ところが、教育長は教育委員の互選でしかなく、直接、区民の信を仰ぐ義務も機会もありません。
 しかも、新たに移行する子ども関連の事務については、教育長は教育委員会に対してすら直接に責任を負うことはありません。再委任される以上、教育委員会もまた「事務を処理する権限を失う」からです。
 区の説明では、今回の組織改正によって教育委員会事務局の職員は2,160人、区の全職員の半分近くにもなります。予算規模で見ても700億円を超すと見込まれています。巨大な組織と財源とそして権限が、教育長の元に集中します。それはまた、選挙によって問われることもなく、教育委員会すら統制できない事務が巨大に膨れ上がることでもあります。行政組織の肥大化、官僚化、そして区民主権の後退につながりかねない事態です。子ども分野の事務事業は区民の関心もたいへん高い分野であるだけに、なおさら危惧されるところです。
 教育委員会は、本来、教育とりわけ学校教育に関わる事務を行うために特別に組織された行政委員会です。同じ子ども関連の事業といっても、教育と子育て支援ではその視点も視座も、方法も大きく異なります。教育委員会の事務は本来、高度ではあるが限定的なものであり、区長部局がみずから取り組むべき行政組織の改革のための道具や受け皿として安易に利用されてはなりません。

 私たちが今回の組織改正案に反対する二つめの大きな理由は、障害を持った子どもたち、特別な支援を要する子どもたちのことが顧みられていないということです。
 区長は、今次の組織改正は「子どもに対する総合的かつ切れ目のない成長支援」のためとしています。しかし。その視野には、悲しいかな障害を持つ子どもたち、あるいは広く特別な支援を必要とする子どもたちは入って来ていません。
今回の組織改正では、子ども分野のうち、子ども発達支援センター、そして自立支援法から児童福祉法に移行した様々なサービスはそのまま区長部局に残ることとされています。また、母子保健に関わる分野もそうです。母子保健は療育支援や児童虐待防止などにおいて子育て所管とまさに一体として事業を進めるべきものであるにも拘らず、組織改正によって両者はかえって区長部局と教育委員会との間で引き裂かれてしまいます。
 障害児施策については、さらに課題は顕著です。組織改正の議論が進みつつある中、2010年、自立支援法が改正され、障害児に関わる施策、事業の多くが児童福祉法に移行しました。この法改正の基本的な視点を、「障害児支援の見直しに関する検討会報告書」はこうまとめています。
 「障害児については…他の子どもと異なる特別な存在ではなく、他の子どもと同じ子どもであるという視点を欠いてはならない。障害のある子どももない子どもも、様々な子どもが互いのふれあいの中で育っていくことは、障害のある子どもにとってもない子どもにとっても有益なことと考えられる。」
 ここには、ノーマライゼーションの基本的な理念が確認されています。児童福祉法において、保育や一般的な子育て支援と障害児支援はむしろ一つのものとして整理されてきたのです。ところが児童福祉法の改正の動きを知ってか知らずか、練馬区の組織改正はむしろ障害児と健常児をさらに大きく分け隔てるものとなり、これからは障害児の前には事業本部を超えた組織の壁が立ち現れます。ここでは、組織改正は事務や事業の「一体化、効率化」ではなく、むしろ分断、非効率化につながりかねません。
 今、特別支援学級に通っている児童生徒は1,000人に達します。通常の学級に籍を置きながら、療育や介護、生活や福祉で様々な支援を必要とする子どもたちはさらにその数倍はいるでしょう。こうした子どもたちのことを、組織改正を中心的に推し進めてきた企画部の皆さんは真剣に考慮して来なかった。組織改正の検討の場に障害児支援や母子保健に関わるメンバーが参加したのは、今年度に入り、すでに組織再編の大綱が決したのちであったことが、それを象徴しています。

 社会状況や区政を取り巻く課題の変化の中で、組織もまた変わるべきところに来ていることは確かでしょう。しっかりした「組織政策」を持つことは、5,000人近い職員を有する練馬区であればなおさら、喫緊の課題です。しかし、組織に熱中すれば、組織に溺れます。事務や事業の拡充、変化が求めるものをはるかに飛び越えて進められる今回の組織改正案はあまりに拙速で乱暴であり、撤回と抜本的な見直しを求めて反対討論を終わります。

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