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「空家」と「ごみ屋敷」 ~区長原案に修正案を提出!~

7日は、練馬区議会第2回定例会の最終日。議長選挙をはじめとした人事関係の案件がかなりあったのですが、それ以外に、いくつかの議案について討論・採決が行われました。その中で、議員提出議案として修正案が出されたものがあります。「空家等および不良居住建築物等の適正管理に関する条例」です。

この条例は、倒壊の恐れなどがあり危険な空家に加え、「不良居住建築物」いわゆる“ごみ屋敷”も対象にして、強制的な立ち入り調査、指導、勧告、命令、代執行など、一連の行政措置を可能にすることを柱としたものです。これに対して、生活者ネット、市民の声ねりま、オンブズマンの議員5人の連名で提出された修正案は、条例の対象を空家に限定し、現にそこに人が暮らしている“ごみ屋敷”については、たんに権力的な行政措置を可能にするだけでなく、居住者への支援をしっかり位置付けるなど、改めて条例をまとめていくべきだというものです。
修正案は、賛成少数で否決されました。しかし、大切な考え方の違いを明確にし、議員提出議案の形にまでまとめたことはとても意義があったと思います。
私は、この修正案に対して賛成討論を行いました。以下、討論の全文を再掲します。ぜひご一読を。

議案第44号 練馬区空家等および不良居住建築物等の適正管理に関する条例に対する修正動議に対し、賛成の立場から討論を行います。
条例原案は、倒壊の恐れ等のある空家と、堆積物等により不良な状態にある建物、いわゆるごみ屋敷について、代執行を含む行政措置を位置付けることをおもな内容としています。
空き家対策については、すでに国の特別措置法で、情報提供から代執行に至る行政措置の根拠が置かれています。この点では、条例案の意義は、手続きの適正化や空家所有者の権利保護という視点から、審議会への諮問、意見を聴く機会の付与など、法に付加した規定を置く点にあります。これらは、法の運用をていねいかつ公正なものにするために必要なものであり、条例化に賛成するものです。
他方、特措法の対象ではない「不良居住建築物等」、いわゆるごみ屋敷については、今回の条例においてはじめて、代執行を含む行政措置の法令上の根拠が与えられることになります。そしてこの点に、私は強い懸念を抱くものです。

空家とごみ屋敷は、本質的に異なります。何より、ごみ屋敷の場合は、そこに現に人が住んでいます。ごみ屋敷に対する行政措置は、所有権はもとより、生存権、あるいは人格権など、憲法上の権利を含め、住人の様々な権利との鋭い緊張関係に置かれる可能性があります。
果たして原案では、空家とごみ屋敷のこうした相違に、十分な目配りと配慮がなされているでしょうか。
実態調査によると、区内にあるごみ屋敷は30軒とのことです。私自身、ごみ屋敷に関する苦情や相談を頂いたことがあります。他方で、ごみ屋敷状態に悩む当の住人や関係者からの相談もまた、頂くことがあります。
そもそも、ごみ屋敷問題の背景には、そこに暮らす住人の病気や障害、経済的な困窮、家庭の崩壊、近隣とのコミュニケーションの破たん等、様々な事情があることは周知のはずです。それらの背景を踏まえた適切な支援こそが、ごみ屋敷解消のカギになる場合も多く、逆に言えば、そうした支援がなければ、結局、事態は繰り返されてしまいかねません。ごみをいくら撤去しても、そこに暮らす人を強制的に追い立て、住まいを奪うことなど許されないのですから、行政措置に限界があることは明らかです。
ところが、原案に規定されているのは、勧告、命令、代執行という行政措置、いわば権力的な対応の体系ばかりです。そこには、ごみ屋敷に暮らす人に対する支援を通して、根本的安定的な解決を図るというアプローチが、全くといってよいほど見られません。
たとえば、横浜市の条例では、「基本方針」として「建築物等における不良な生活環境の解消に取り組むに当たっては、支援を基本とし、必要に応じて措置を適切に講ずること。」を掲げています。京都市の条例でも、やはり「基本方針」のひとつに、「要支援者が不良な生活環境を生じさせた背景に地域社会における要支援者の孤立その他の生活上の諸課題があることを踏まえ,これらの解決に資するように行うこと。 」を明記しています。
23区の場合でも、たとえば板橋区では、立ち入り調査のうち、住居そのものについては、居住者の同意を前提としています。中野区では、ごみの発生者が抱える生活上の課題の解決のために、保健所や福祉事務所等が行う事務と一体的に対策を取ることを定めています。
他自治体の条例には、居住者の人権への配慮や、居住者を支援するというアプローチが様々な形で盛り込まれています。こうした視点や姿勢が、原案には足りません。

区は、居住者への支援については「空き家等対策計画に書いてある」と答弁しています。しかし、計画に書いてあることに背骨を通し、その実現を担保するためにこそ条例はあります。ごみ屋敷解消に向けた責務と措置を明示するだけでなく、居住者の置かれた状況や課題を十分に踏まえながら、関係所管を挙げて一体的に働きかけていく。こうした努力を加速させるためにも、条例の中に居住者への支援に係る規定をしっかりと置くべきでした。
法的な背景を含め、大きく条件の異なる空き家と「ごみ屋敷」については、条例の理念や盛り込むべき事項も、おのずと異なってこざるを得ません。いったん切り離し、ごみ屋敷等に関する条例の整備については、改めて議会としても精力的に取り組むことを呼びかけ、修正案に賛成の討論とします。

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